番外編

作品タイトル:おとぎラグナ~新人勇者は魔王の子~
『迷い人』
神秘的な光が広がる真っ白なこの空間は、お城にある魔法陣の中。
「僕はフェンリア・ロキムガルド」
目の前でぽかーんとしている、10歳くらいの子供に名乗ってみる。
「………………」
「君に色々教えるのが、僕の役目なんだけど……えーと…大丈夫?」
「…へ!?」
無言で硬直してるから、目を開けたまま気絶してるのかと思って顔を覗きこんでだら、ようやく反応してくれた。
「うわぁ!!何!?誰ぇ!?」
「だから、フェンリアだってば……僕は勇者として、この世界に迷いこんだ君をー」
「ゆうしゃぁ!?見た感じ小学生なのに!?」
なんだろう小学生って…異世界の言葉かな?

「マジかよぉ……勇者ってなんとなく16歳くらいのイメージなんだけどなぁ…」
「だいたい合ってるよ?僕15歳だから」
「いぃぃ!?中学生!?!?」
また知らない言葉が飛び出してきたけど、なんだか失礼なこと言われた気がする。
「さっきより驚いてるけど、僕はそんなに幼く見えるの?」
「い、いやぁ、ちょっと小柄かなぁと…でもまあ、オレのイメージしてる勇者像がこの世界の勇者と違っただけだから! 」
「あぁ、僕は【この世界】全部を背負った勇者じゃなくて【アステリシア王国】の勇者だよ」
「あすてりしあ王国?全然わかんない…」
「それを教えるのが僕の役目だよ、だけど…」
「だけど??」
実は僕のほうも、異世界から来た少年の印象がイメージと違った。
最初こそ混乱していたけど、びっくりするだけで割と落ち着いている。
「君さ…焦ったり怒ったりしないの?」
「え?あー……なんつうか…こういう感じのって、オレの世界ではよくあるんだ。もちろん本物じゃないお話としてだけどな」
「異世界に迷い込む話が?」
「そういう言い方すると都市伝説みたいでちょっと怖いな!どっちかっていうと異世界に転生するほうが多いんだぞ!迷い込むより!」
おどけて説明するこの子は、本当に少しも怖がってるように見えなかった。
「それにオレRPGのやりすぎで冒険してる夢とかよく見るから慣れてるし…いつもよりリアルだからびっくりしたけどな!」
「あーるぴーじー?」
「お!興味あるなら教えるぜ!」
「ち、違う違う!ちょっと待って…」
楽しそうに喋るこの子のペースに流されて、自分の使命を忘れかけていた。
結界の外で王様も見てるっていうのに…何やってんだ僕は……。
「えーと、まずこの世界は…君たちの世界で言う『ファンタジーな世界観』って説明すると通じやすいらしいんだけど…」
「うんわかるわかる!勇者って言ってる時点で想像つくよ!」
僕らにとっての現実が、異世界の人から見ると『幻想』なのか…。
「あれ?そういやなんでフェンリアは日本語話せるの?」
「日本語?…ああ、言葉が通じるのは精霊様の加護のおかげだよ。」
「精霊もいんの?!ますますファンタジーゲームみたいだ!」
見たことはないのに【精霊】という存在を知ってるのか…異世界の人ってよくわからないな。
「それでね、精霊様の加護を受けられる者は限られてるんだ。賢者とか巫女とか…勇者もその1人。」
「賢者と並ぶのかぁ、フェンリアってすげーんだな!!」
「僕がすごい訳じゃないよ、まだ新人の勇者だし……それに僕は………の、子供…」
「え?」
「僕は…魔王の子供なんだ。」